(第14回 日本の次世代リーダー養成塾 参加者インタビュー2から続く)
留学生との対話から生まれた「世界共通の教科書」
印象深かった講義はありますか?
上野 鎌田先生(鎌田實氏、医師・作家 諏訪中央病院名誉院長)ですね。戦争のお話でしたが、イスラエル兵が敵を撃ち殺したんです。少年で脳死でした。この少年の父親が当時、イスラエル人の女の子にこの少年の心臓を移植してもいいと言いました。周囲から「なぜ、敵国の人間を助けなきゃならないんだ?」と責められる中、父親は「人助けに敵も味方もない。目の前に苦しんでいる人がいるのに、国や民族になぜこだわらなければならないのか。自分は人助けがしたい、そういう気持ちが大事なんだ」と話しました。とても考えさせられる話で、私にはいちばん印象に残りました。
国レベルでは敵対していても、それぞれの国と国民の意識には差があるのですね。他には、どんな話を聴きましたか?
上野 武藤先生(武藤杜夫氏、日本こどもみらい支援機構代表)のお話にも感動しました。武藤先生は少年院の先生で、まず口調からピリッとされていて聴くほうもシャキッとさせられました。少年院で暮らす少年たちには実は規律正しい子が多いと話され、彼らの現実を知り、考えるための動画を見せてくださいました。動画には「なぜ自殺してはいけないのか?」等のテーマが設定されていて、テーマの異なる3本があったのですが1本ごとに涙する人も多かったです。命の大切さ、他人から自分を肯定してもらうこととそのために自分がまず自分を肯定することの重要性等、多くを学ばせていただきました。少年院のネガティブなイメージの元には社会の固定観念があり、院を出た少年たちはちゃんと生きているのにそうした社会の偏見で悪く言われるのは納得がいかないと感じました。武藤先生の講義では、会場の空気全体が揺れ動いた気がしました。
学校では普段あまり扱わない、考えない内容が多かったのですね。ところで、クラスのディスカッションに関してですが、1クラスは何人くらいいたのですか?
上野 20数人ですね。お互いの顔が見えるように座るので、クラスメイトは次々に意見を言っていくんです。高1〜高3の混合クラスでしたが、高1がとても活発でした。高2の中には話についていけなかったりすると、「情けない…」と泣き出す人までいたほどでした。
ディスカッションのレベルはやはり高かったですか?
上野 はい。白熱する一方で、よく脱線もしました(笑)。話したいことが多すぎて、話すのをガマンする人もいました。
「アジア・ハイスクール・サミット」はどんな感じでしたか?
上野 私は8組だったのですが、「情報」について課題を設定しました。事前課題の「何が日本の課題なのか?」で、一般的にいえるのは自分たちや周囲の人たちには、まだまだ知らないことが多い。知らないことが偏見になり、偏見が多くなると事実の誤解も生まれるのだと。私たちはまず正しい情報を得る必要があり、この前提をクリアした上で世界に発信できる土台ができるのだと考えました。8組には中国からの留学生がいました。日中間で懸念されている問題に関して、彼らに尋ねると「そんな問題は教科書に載っていなかった」とか「勉強していない」「日本が悪いと教えられた」といった答えが返ってきました。まずはこうした事実から考えていかないといけない。そこで、私たちは「世界共通の教科書」を作ることを考えました。しかも、ルーズリーフの教科書なら貧しい国の人たちでも、教科書を新しい情報に差し換えることが低コストでできます。歴史には正しいとか、間違っているとか判断できない場合もありますが、そういう場合は当事者双方の主張を同じページに併記し、その解釈や判断は学ぶ生徒に任せればいいと結論付けました。
(第14回 日本の次世代リーダー養成塾 参加者インタビュー4へ続く)